2024年5月31日投稿

安定なepigenetic変異体:ホソバウンランの場合

これまで、ストレスなどの刺激に応答して変化するepigeneticな形質をみてきた。そのようなepigeneticな形質は次世代に伝達される場合があるが、例外なく不安定で、世代を重ねるともとの形質に戻ってしまう。一方で、かなり安定なepigenetic変異体が知られているので、それらを見てみたい。安定なepigenetic変異体があることが、進化とどのようなかかわりをもつかは、考えてみる価値があるが、まだ、答えはない。

次のような論文があるので、見てみよう。

An epigenetic mutation responsible for natural variation in floral symmetry(文献16)

ホソバウンラン(Linaria vulgaris, ゴマノハグサ科 ウンラン属)には、普通の野生型と天然の変異型peloric(既に250年前にリンネが記載している)がある。野生型の花は独特な左右対称型であるが、peloric変異型では5回転対称型の花をつける。なお、peloric変異体とWTを交配すると、F1はWT表現型となるので、peloric変異は劣性であり、さらにメンデルの法則に従っていた。

図1:文献16より引用


キンギョソウ(Antirrhinum majus オオバコ科 キンギョソウ属)の花は、ホソバウンランの花とよく似ており、その花の対称性はcycloidea geneが決めている(文献17)。この遺伝子のmutationがpeloric変異と同定されている。このpeloric変異も劣性である。そこで、cycloideaに相当するホソバウンランの遺伝子(Lcyc)に着目した。WTとpeloric変異体のLcyc genomic DNAの配列を比較したところ、3’ non-coding regionのpolymorphic部位に違いがあるものの、coding regionsの930 bpはまったく同じだった(Lcyccycloideaは87% homologousであった)。そこで、WTとpeloricのgenomic DNAsを一対のisoschizomers制限酵素MboI and Sau3A:同じsiteを切断するが、Sau3Aはmethyl化されていると切らない)でdigestしてみた。Peloric genome DNAは、Sau3Aでは不完全な切断が認められた。興味深いことに、methylationの違いは、外の遺伝子には認められなかった。Peloric変異体のLcyc遺伝子のmethylation sitesを決めてみると、完全にmethyl化されているサイト(8か所)、半分くらいがmethyl化されいるサイト(9か所)、methyl化されていないサイト(2か所)だった。F1個体では稀に、さらにF2個体ではある頻度で、左右対称性の崩れた花を持つものも現れたが、それらはLcyc遺伝子DNAのメチル化の程度を反映していた。

Lcycの発現をRNA in situ hybridaizationで調べたところ、WTではdorsal region of floral meristemsに発現が認められたが、peloric変異では発現が認められなかった。

WTとpeloric変異体を交配して作成した子孫の中から、peloric変異形質を示す個体を調べたところ、例外なくmethyl化されたalleles(3’のpolymorphic regionを含めて)がホモであった。この結果は、methyl化されたallelesが子孫に伝わったもので、Lcycをtransにmethyl化する因子が作用したのでないことを示している。

なぜ、複雑な花の形をしているホソバウンランやキンギョソウから、5回転対称形の花をもつ変異体が自然に出現したのか、わからない。WTの花のほうが、蜂や蝶の吸蜜には適していると思われる。詳しいことはわからないが、素人目には退化のようにみえる。

Cubas P et al. Nature 401:157 (1999)

Luo D et al. Nature 383: 794 (1996)