2024年6月7日投稿

Vernalization(春化)の1

長日植物は夏から秋にかけて発芽して、そのまま育つと、秋に日長がまだ十分に長いと、花芽形成が起こってしまい、冬に開花しかねない。しかし、実際は、発芽した植物では、日長に応答して花芽形成するシステムが抑制されている。この抑制システムは、植物を低温に一定期間さらすと、徐々に解除される。この低温による開花抑制システムの解除をvernalizationと称している。

 Vernalizationは本ブログの目指す、epigeneticsからgeneticsへの変換 (genetic assimilation) の問題と直接かかわる事象ではないが、epigeneticな状態の構築とその解除のメカニズムが、見事に研究されているので、どこかで接点が見出せそうな気がする。

 まず、Sheldonたちの論文(文献1)を見てみる。実験室でもっともよく使われているArabidopsisは長日植物で、CONSTANS (CO)遺伝子が一定時間以上の日長によって刺激され、FLOWERING LOCUS T (FT)を活性化し、開花抑制因子FLOWERING LOCUS C (FLC)の作用と拮抗する。植物を寒さにあてると、FLC活性が低下し、さらに春の日長によって、CO依存的なFT活性化が起こる。低温処理はVERNALIZATION INSENSITIVE3の発現を誘導し、VERNALIZATION2 polycomb-like complexと複合体を形成する。この複合体がFLC chromatinに結合し、histone methylationの状態を変化させる。以上が、本研究の背景である。ここでは、paternally and maternally derived FLC:GUS reporter genesがどちらもvernalizationによってresetされることを示した(なお、GUSはβ-glucronidaseで染色に使う)。

 FLC:GUSを有するC24 ecotype株を使った。vernalization前の個体ではFLC:GUSは♂(雄蕊)および♀(雌蕊)の生殖器官に発現していた。vernalization後、stage-8 flower buds stageまでは、発現が検出できなかった。しかし、stage-5 anthersで検出できるようになり、pollen mother cellsには明快に発現していた。それぞれのステージを調べた結果、♂由来のFLC:GUSは、vernalize後の植物体の♂生殖器官、葯 (anthers)に発現していたが、成熟した花粉には発現していなかった。受粉後、♂由来のFLS:GUSはthe single celled zygote(受精した細胞)から発生途上の胚細胞に発現していたが、胚乳になる細胞には発現していなかった。vernalized植物体のの生殖器官にはFLS:GUSは発現していなかったが、受粉後24h、弱い活性が検出でき、

発生が進むにつれて、強く検出できた。結論:vernalizationによるFLC遺伝発現の抑制がresetされるのは、胚発生の後期に始まっている。

  1. Sheldon, C. C., et al. PNAS 105: 2214 (2008)