2024年3月30日投稿

Transgenerational epigenetic inheritance 1

ここからまた、進化に関する項目を書く。

これまでは、genetic assimilationについて書いてきた。すなわち、外的刺激に応答して出現するepigeneticな新しい形質を示す生物個体が、選択継代交配してゆくと、外的刺激なしに、新しい形質を示す個体が出現する、という現象を、どう説明するかという問題である。Lindquistたちは、Hsp90によって隠されていたallelesが、Hsp90変異によって形質発現に寄与する形に変わることから、それらの複数のallelesが選択継代交配を続けると、新しい形質の発現に必要なallelesの数が閾値を超えて、新しい形質の発現をもたらすというモデルを考えた(文献1,ここから文献のナンバーを改めて1からとする)。しかし、Sollarsたちの研究から、Hsp90変異は細胞のepigeneticな状態を変える(逆に言えば、正常なHsp90はepigeneticな状態を維持している)ことが示され、刺激によって誘導された変異形質を示す個体を選択継代すると、次第に刺激に応答しやすくなる(つまり変化したepigeneticな状態が子孫に伝わる)可能性が示唆された(文献2)。Epigeneticな状態の変化とは、ゲノムはまったく変化していないのにもかかわらず、epigeneticな遺伝子発現が違うことを意味する。しかし、一般に、体細胞のepigeneticな状態は生殖細胞には伝わらず、さらに胚が形成されるとき生殖細胞のepigeneticな状態は初期化されるので、親のepigeneticな状態は子孫に伝達されない、と教科書には書いてある。しかし、実際にepigeneticな変化が子孫に伝わるケースは数多く報告されていて、transgenerational epigenetic inheritanceという研究テーマになっている。この分野は、未成熟でまるで体系化されていない。それ故、これから書いて行くことは、僕の勉強のメモのようなものにしかならない。

  1. Rutherford, S. L. & Lindquist, S., Nature 396: 336 (1998)
  2. Sollars, V. et al. Nature Genet. 33: 70 (2003)