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問題点の整理1

これまで書いてきたことを振り返ってみる。このブログは、Waddingtonのgenetic assimilationについての記述から始まっている。彼は、ストレスによって生じた新しい表現形質が選択継代を続けるうちに、polygenicな形質に変換することを見事に示した(文献2)。しかし、これは新しい遺伝子が生じたことではない。後に、Rutherford & Lindquistが示したように、ストレスによって、Hsp90によって隠されていた変異allele(s)が発現して、新しい表現形質を作るallelesのセットが生まれたのである(文献10)。これは新しい遺伝子の誕生ではなく、ストレスによって生じた”epiallele(s)”が選択継代を続けるうちに、いままで使われていなかったallele(s)に入れ替わったと考えるべきである。したがって、R&Lの論文にはgenetic assimilationという用語は出てこない。

 Sollarsたちの実験によれば、Krif-1変異による眼の軽微な異常をHsp83変異(またはHsp83阻害剤使用)あるいはTrxGの変異が増幅し、さらに選択継代することによって、増幅された変異はHsp83あるいはTrxG変異に依存しなくなった(文献20)。Waddington、R&L、およびSollarsたちのショウジョウバエの実験はどれも、(1)ストレス⇒Hsp83欠損という条件が変異形質の出現をもたらし、(2)変異形質を示す個体を選択継代すると、ストレス(条件)非依存的に変異形質を示す個体に変換したことを示している。さらに、Lindquistたちは、Arabidopsisを使って、同様な変異形質のストレス依存性の変換を示した(文献15)。

 では、ストレスによって誘導されるepigeneticな形質がgeneticな形質に先行することが、一般的法則であろうか(ラマルク説)。なお、ここでいう誘導される新規形質は、最初は個体群の中のごく一部に誘導されるにすぎない。その一部が選択されて、次第に割合が増えて誘導なしに発現した形質になったのとも言える。つまり、新しい形質といっても、それははじめから 個体群のゲノムに含まれていたものと考えられる。たまたま、ゆらぎが大きくなったために出現したepigenetic新規形質を持つ個体が選択されて残ったと言える(Arabidopsisの実験が示しているように)。

 ストレスによって誘導されるepiallelesを含めれば、allelesだけの組み合わせからなる稀少な表現型の出現頻度が増す。しかし、それらのepiallelesはストレスがないと生まれない。このようにまとめられるようだが、さらに興味深いことに、epiallelesがストレスなしに世代を超えて伝達されるというケースが少なくないことが、最近わかってきた。いわゆる、transgenerational epigenetic inheritanceの問題である。これについては、後に説明する。