231008投稿

Hsp90依存的Piwiリン酸化の関与

ショウジョウバエのKrlf-1変異はKruppelタンパク質の異所性発現を誘導する。Hs083およびTrxグループの遺伝子変異がその異所性発現を増幅し、眼の異常を引き起こす。これが、先に述べたSollarsらの研究結果である。Haifan Linのグループは、上述したKrIf-1の系を使って、Hsp83およびTrxグループの遺伝子変異と同様に、piRNA silencing経路を抑制する変異piwi^1あるいはpiwi^2がmaternallyに眼の異所性発現を促進することを見出した(文献21)。次に、ダイレクトな証明ではないが、胚細胞内でpiwiタンパク質がHop(Hsp83 cochaperone)/Hsp83と複合体を形成していることを示唆する結果を得た。さらに、活性化状態(silencing活性を有する)のpiwiのserineおよびtyrosineがリン酸化されおり、hsp83変異体の卵子ではこれらのリン酸化に欠損があることを示した。

要約すると、Kruppel(Kr)遺伝子の変異KrIf-1は潜在的には眼の異所性発現を引き起こすが、その発現は通常はHsp83の作用によって抑圧されている。これは、正常Hsp83が十分量あればPiwiのリン酸化を保証し、piRNA silencing経路を活性化させ、KrIf-1の発現を抑制しているからである。Hsp83の機能が欠損するか、あるいは量が減少すると、このsilencing経路の抑圧が緩和され、KrIf-1の異所性発現が増幅された、考えられる。抑圧緩和が選択継代によって、変化したクロマチン構造が「固定化する」と、もはやHsp83の抑制作用を受けなくなる。「固定化する」とは、交雑による遺伝的背景の変化と選択によるgenetic assimilationにほかならない。

  1. Gangaraju, v. K. et al. Nature Genet. 43: 153 (2011)