2024年5月14日投稿

「世界史の構造」序論 

3.権力のタイプ

権力とは、一定の共同規範を通して、他人を自分の意思に従わせる力である。共同規範には3つのタイプがある。まず、共同体の法(掟)。共同体の属すると、見えない力にしばられる。古代のある集団では、自己破滅的なポトラッチが力となっている。第二は国家の法で、異なる共同体間の法である。基本的には暴力による支配であるが、ある種の秩序「法」(主従契約のような)が基盤にある。第三に、国家間の共同規範(法)があり、それに基づいて国家間の交易が行われてきた。交易抜きに国家の繁栄はない。柄谷はここでは触れていないが、「国家間の戦争」は当事者の間にあるはずの平等性が、どちらかの国家あるいは両者が認めない場合である。どの共同規範にもその基盤に特有の「交換様式」がある。実際の世界では、これらの権力様式を含んでおり、それぞれの基盤にそれぞれの交換様式がみられる。柄谷は、これに加えて第四の力と交換様式を考えているが、それは本書のテーマになっている。

4.交通概念

マルクスとモーゼス・ヘスの「交通」に触れてある。人間と人間、人間と社会、社会と自然などの相互関係である。

5.人間と自然の「交換」

資本制工業生産が始まるまでは、人間による生産がエコシステムを破壊することはなかった(しかし、柄谷が書いているように、世界史において最初の環境破壊は、メソポタニアの灌漑農耕において生じ、砂漠化に帰結した)。生産の廃棄物は自然によって処理されていた。マルクスは工業だけでなく、資本主義的農業も労働者や自然から略奪すると、指摘している。

6.社会構成体の歴史

マルクスが「資本制生産に先行する諸形態」で示した、社会構成体の歴史的諸段階とその中での支配的交換様式を表にしてある(柄谷の表)。

 

社会構成体

支配交換様式

世界システム

1.氏族的

互酬制A

ミニシステム

2.アジア的

略取-再分配B1

世界=帝国

3.古典古代的

   〃  B2

 

4.封建的

   〃  B3

 

5.資本主義的

商品交換C

世界=経済

 

柄谷はこの表に説明を加えている。アジア的と言っても、アジアだけでなく、ロシア、アメリカ(インカ、マヤなど)、アフリカ(ガーナなど)にもこのタイプの社会構成体がある。古典古代的と称する構成体には、奴隷制農奴制に基づいており、交換様式Bを主要な原理としている。メソポタミア、エジプトで巨大な世界=帝国として発展したとき、ギリシャ諸都市やローマは亜周辺に位置したため、帝国に吸収されず、集権主義的な政治システムを受け入れず、直接民主主義を発達させた。

 ヨーロッパがギリシャ・ローマ文化を受け継いだのは、イスラム圏を通してだ、とする興味深い指摘が書いてある。主君と家臣の互酬的な契約という封建制の交換様式はギリシャ・ローマにはない。

7.近代世界システム

上の表に記してあるように、ミニ世界システムは交換様式Aによって、世界=帝国はれてきた。インカやアステカなどは部族社会の緩やかな連合体は、すみやかに解体され、古いヨーロッパ帝国によって植民地化された。世界=帝国にはいくつかタイプがある。旧世界=帝国は簡単には植民地化されなかったが、オスマン帝国のように多くのネーション=ステートに分節されてしまった(トルコの経緯は非常に興味深い)。それを免れたのは、社会主義革命によって世界=経済から離脱したロシアと中国だった。市民革命(ブルジョア革命)は、絶対王政を打倒したが、中央集権化はいっそう推進された、と柄谷は書いている。第4の交換様式Xによって、どのような世界システムができあがるのか、本書の核心である。

 これで、序説が終わり、第一部ミニ世界システムへと入ってゆく。