240208投稿

酵母発現形質がプリオン依存性から非依存性に変わる

これまでに、Lindquistたちの研究によって、次のことが明らかになった。すなわち、プリオンによって新しい多様な表現形質が作られる。これはepigeneticな変化であるが、genetic backgroundを変えることによって、プリオンに依存しない遺伝的形質に変化し、安定に子孫に伝達される。[psi-]株は10-6の頻度で、自動的に[PSI+]に変換するし、[psi-]が増殖に適さない環境変化に遭遇したとき、微量の「PSI+]細胞が新環境に適していれば、それらは生き残ることができる。[PSI+]は適応の範囲を拡張しているといえる。[PSI+]の他にも多数のプリオンが研究室で使われている酵母で見出されており、[PSI+]と同じように、多様な表現形質の発現にかかわっている。しかし、これまで、[PSI+]のプリオンなどは、野生株の酵母には、ほとんど見出されていない。

 そこで、690の野生株をスクリーニングして10株にSup35タンパク質がプリオン状で存在する([PSI+]である)ことを見出した(文献43)。スクリーニングはプリオン凝集体がionic detergentsに溶けない性質を利用し、anti-Sup35抗体で検出した。これらの10種の[PSI+]株が必ずしも近縁の株ではないことも確認した。さらに、[PSI+]株と同定された細胞をグアニジン塩酸処理、あるいはHsp104のdominant negative変異の導入によって、amyloidが消失するので、野生株の[PSI+]がプリオンであることを確認した。[RNQ+]はこれまでに、唯一知られていた、野生株のプリオンであるが、[PSI+]株は、常に同時に[RNQ+]であった。[RNQ+]はprion-inducing factorとして働いている。

 以上のような手法で見出した[PSI+]野生株を、いろいろな炭素源、高浸透圧、pH変化、抗菌剤存在下などでの増殖を、同じ野生株の[psi-]と比較してみると、異なる場合がかなり認められた。これは、酵母の実験室用の株で得られた知見とまったく同じであった。

 多様なgenetic backgroundを有する様々な実験株を交配することによって、[PSI+]依存性の表現形質が[PSI+]非依存性に変わることは、すでに紹介した(文献35、42)。例えば、野生株UCD978は予期したように、かなりのheterozygosityを有し、DNA配列からpolymorphicであることが示された。30個のhaploidコロニーについて、agar platesに対する接着性を調べた。5コロニーが[PSI+]依存性接着を示し、20コロニーが[PSI+]に関係なく接着性を示さず、残る5コロニーは[psi-]で接着性を示した。この結果は、野生株UCD978は自然界において遺伝的な多様性を有し、いくつかの遺伝子のpolymorphismsがあると考えられる。また、プリオンがgenotypeとphenotypeの関係を変化させることも明らかになった。

43: Halfmann, R et al. Nature 482: 363 (2012)