240405投稿

♂親ラットの過食が♀仔ラットの膵島に異常を誘発する

Ng, S-F. et al., Chronic high-fat diet in father programs β-cell dysfunction in female rat offspring(文献3)

まず、上の論文を見てみる。2型糖尿病は遺伝的要因と生活習慣の要因によって発症するが、生活習慣(例えば、過食など)が次世代の糖尿病発症にも寄与することを示唆する研究結果が得られている。マウスでは、母マウスがHFD(高脂肪餌)を摂ると、の仔マウスが体重増、糖尿病やインスリン抵抗性を示すことが、明快に示され、さらに次世代のマウスが肥満ではないが、インスリン抵抗性を示すことが報告されている(文献4)。マウスが母マウスの子宮の中で影響を受けたことが、何らかの経緯で次世代のマウスに伝達されたと考えられるが、詳細は不明である。

上記の論文では、Sprague-Dawley founderラットをHFD(controlは正常餌)で飼育し、正常餌で飼育したラットと交配した。の仔ラットに、体重、生育、エネルギー摂取量の変化は認められなかった。さらに、肥満、筋肉量、空腹時血漿レプチン、トリグリセリドなどにも異常は認められなかった。しかし、6週齢の仔ラットのグルコース負荷試験を行ったところ、血中グルコースの上昇とインスリン分泌の遅れが認められた。12週齢のラットでは、これらの異常がさらに顕著だった。一方、インスリン負荷試験(腹腔投与)では異常が認められなかった。HFDラットの仔ラットでは、β細胞が少なく、膵島も小さい。これはlarge isletsが減少しているためで、small isletsの数はむしろ増えていた。

1匹のHFDラットを親とする1匹の仔ラットをとり、計5匹の成熟した仔ラットの膵島からtotal RNAsを抽出し、quantitative RT-PCRによって遺伝子発現の解析を行った。普通食のラット親を対照にして、P<0.001の精度で、21遺伝子がupregulateしており、56遺伝子がdownregulateしていた。ここでは触れないが、この結果は、膵臓の形態変化およびinsulin-granule exocytosisの低下を裏付けている、と著者は論じている。もっとも顕著な違いは、IL13ra発現増加であった(1.76, P=0.018)。しかし、IL13raはJak-Stat signalling4に関与するというKEGG(京大化研)の遺伝子ネットワークの区分けの範疇しか情報が示されていない。

次に、膵島のIL13ra遺伝子のcytosine methylationを調べた。Bisulphite法によって解析したところ、IL13ra遺伝子の転写開始点前の-960にあるcytosineのmethylationが、HFD親の仔ラットは8.9%だったのに対し、control親の仔ラットでは33.6%と差が顕著だった。このメチル化の差が、IL13raの発現の違いの原因を示唆する結果であるとしている。

しかし、いろいろと調べてみても、IL13raと糖尿病が関係するという研究は、2024年においても報告がない。著者は、To our knowledge, this is the first direct demonstration in any species that a paternal environmental exposure, HFD consumption, can induce intergenerational transmission of impaired glucose-insulin homeostasis in their female offspring. と自負している。

  1. Ng, S-F., et al. Nature 467: 963 (2010)
  2. Dunn, G. A. & Bale, T. L. Endocrinology, 150: 4999 (2009)

 

次に、同じNature誌のNews & Viewsに解説があるが、それは次回に。