2024年4月18日

Skinnerのグループの研究の紹介(文献6)

Vinclozolinはジカルボキシミド殺菌剤系の農薬であるが、anti-androgenic内分泌かく乱物質としてよく知られている。Vinclozolinに被曝した親の120日齢より若い仔ラットは、精巣の精原細胞に欠損を生じる。さらに6-14月齢になると、腫瘍、前立腺病変、腎臓病、免疫異常や精子形成の異常などを発症する。仔ラットにも異常を生じる。仔ラットに生じる異常は、胎児のときの精巣におけるtranscriptomeの変化が原因と考えられ、さらにそれはDNAメチル化の変化に起因する(文献7)。

 この論文では、vinclozolinによるF3世代のラットに生じた精子DNAの

promoter領域のmethyl化の変化を解析した結果が述べてあ

る。方法は、methyl-cytosine抗体による免疫沈殿物をpromoter tiling microarray chip hybridization (MeDIP-Chip)で解析した。精子の20本の常染色体上に散在する48個のpromotersに計52か所の部位のmethyl化が変化していた。さたに、bisulfite sequencingとmass spectrometryを組み合わせて、各methyl化部位のmethyl化の程度がvinclozolinで変化したかを調べた。その結果、16部位のpromotersについて、methyl化の違いが裏付けられた。しかし、残りの部位については、方法的制約によって結果が得られなかった。Chip解析に使ったDNAサンプルについて、pyrosequencingによって解析したところ、RGD1561412/Olf735遺伝子で47.6%のmethylation増加、KCNE2遺伝子で25.9%の低下が確認できた。

 Methyl化が増加した16のpromotersに共通の塩基配列motifをGRAM2 algorithmをtoolとして探した。最適のmotifをlogo表示(バイオインフォーマティックスの説明は省略する)したのが図1である。著者たちは、このmotifをEDM1 (Environmental Induced Differential Methylation Consensus Sequence 1)と名付けた。面白いことにEDM1はmethyl化サイトであるCpGをもつ確率が低いことである。

 EDM1がどの程度の頻度で下記の4つのグループ配列に含まれているかを調べた。結果は、(ⅰ)上に記した16部位にEDMが含まれる確率は75%。(ⅱ)上記の48 promotersは60.4%であるのに対し、(ⅲ)ランダムに選んだ125 promotersでは16.8%に下がった。(ⅳ)興味深いのは、報告されている75 imprinted promotersにEDM1が存在する確率は58.7%と高かった。以上の結果は、EDM1 motif の共通配列がtransgenerational differential methylationにかかわることを示している。Imprinted genesのmethylationを支配している転写因子CTCF結合部位が、上記の(ⅰ)~(ⅳ)のpromoters配列に含まれる確率はどれも同じ程度の割合で、transgenerational differential methylationに特有のものではない。

 MeDIP-Chip promoter array解析とbisulfite mass spectrometry解析の結果は、一般的にはよく一致している。しかし、promoter Famm111aの場合、MeDIP-Chip解析では、vinclozolin処理によってF3世代ラットの精子のmethylationが有意に増加していたが、bifulfite mass spectrometry解析では差がなかった。この結果は、vinclozorin処理ラットF3世代の精子promoter Famm111aのコピー数が増えていたことによる。

  1. Guerrero-Bosagna, C. et al., PLoS ONE 5: e13100 (2010),
  2. Anway, M. D. et al., Science 308: 1466 (2005).

    文献6より転載