追記231231

HSP90は特定の表現形質をつくる(potentiation)

HSP90が変異遺伝子の表現形質を支える場合もある。例えば、出芽酵母の野性株を高濃度の代表的抗菌剤であるFluconazole(以下FLと略す)で処理すると、低頻度ながらHSP90を高発現しているFL抵抗性株がすみやかに出現する。単離されたFL抵抗性株は普通に酵母が増えている状態では安定な性質であるが、抗Hsp90剤で人工的にHSP90の発現を低下させると抵抗性の形質を失う。薬剤FLは、菌類の主要なsterolであるergosterolの生合成にかかわる酵素Erg11を阻害し、有害な中間体を蓄積させる(抗菌剤が効く理由)。この有害な中間体の蓄積にはergosterol生合成に必要な酵素ERG3が必要であるが、単離されたFL抵抗性株はすべてerg3変異株であった。ストックしてあった4,700種類の遺伝子欠損株を調べたところ、11種の遺伝子の欠損株で、HSP90依存性のFL抵抗性を増強が認められた。それらの中には、カゼインキナーゼ2遺伝子(CKA2)の欠損株のように、ergosterol生合成には間接にしかかかわらない遺伝子変異も含まれていた。さらに、これらのFL抵抗性株では、HSP90はcalcineurinを介して有害な中間体の蓄積を防いでいるらしい。すなわち、出芽酵母の抗菌剤抵抗性は、かなり多様な遺伝子の変異とHSP90の作用を利用して生じたと言える。このような薬剤抵抗性は、CandidaやAspergillusにも認められるので、広く菌類に保存された環境適応法の一つと思われる。