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これから述べることを要約すると次のようになる。

  1. プリオンが細胞に感染すると、それまで隠されていた遺伝的形質が表現型に変わる。
  2. その表現形質を有する細胞あるいは個体が自然選択あるいは人為的に選択され、継代される。
  3. 継代選択を繰り返すと、プリオン依存的な形質がプリオン非依存的形質に変わる。

以上、Hsp90について、Rutherford & Lindquistが明らかにした事象をまったく同じストーリーである。

 

プリオンが感染すると様々な新しい表現形質が現れる

酵母プリオン[PSI+]は、翻訳終結複合体のポリペプチド鎖解離因子Sup35がプリオン構造をとった状態である。Sup35は3つの領域からなる。C端領域が翻訳終結作用を担っている。NおよびM領域はSup35タンパク質がプリオン構造をとるのに必須の領域である。N-M領域が欠損あるいは機能しない場合、細胞は非プリオン状態[psi-]になる。True&Lindquistは、同じ遺伝的背景を有する酵母の[PSI+]細胞と[psi-]細胞の様々な性質を比較した(文献35)。興味深いのは、遺伝的背景が異なると、プリオン状態の違いが異なるではことである。例えば、YPD培地のpHを6.8から6.0に変えると、遺伝的背景がD1142-1Aの場合、[psi-]細胞は[PSI+]細胞よりよく生育するが、遺伝的背景がSV-H19の場合、逆に[PSI+]細胞が[psi-]細胞よりよく生育する。pH6.8の条件では、どの細胞もよく生育した。アルカリ金属塩化セシウムを培地に添加しても、多くの株細胞では、[PSI+]と[psi-]も同じように普通に増殖するが、D1142-1Aの場合、[PSI+]細胞では増殖阻害が認められた([psi-]細胞では阻害がなかった)。など、など、詳細な結果が論文には記されている。