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Hsp90とシグナル依存的転写制御

Hsp90がクロマチンレベルでの遺伝子発現の調節を行っていることは、多くの証拠によって示されていた。例えば、外的シグナル条件が変化したときに、p23(Hsp90の cochaperone)やHsp90が、DNAに結合しているHR複合体を解離させ、転写のシグナル依存的変換のきっかけをつくる。また、酵母のGAL遺伝子の誘導発現において、Hsp90がプロモーター領域に結合しているnucleosomeをまず解離させ、GAL遺伝子上のGAL4結合部位を利用可能にすることも示されている(文献22)。

さらに、熱ショック応答遺伝子の転写発現が機能するために、それらの遺伝子の転写開始部位直後に転写しかけて休止したRNA polymerase IIが結合して待機しているが、この待機機構を支配する複合体形成維持にHsp90が必須である(文献23)。したがって、Hsp90阻害剤で処理すると、RPase IIがシグナル刺激なしにそのまま転写を続けてしまい、肝腎の熱ショック刺激による熱ショック遺伝子発現の誘導レベルが極度に低下してしまう。Paroらは、シグナル依存的に発現する遺伝子のプロモーター部位(のごく近傍)にHsp90が結合していることを示した。それらの遺伝子の代表的なものとして、転写因子c-mycやp53、シグナル伝達分子NotchやDelta、Hox遺伝子群のscrやAntp、応答遺伝子のHr46やhsp70などが示されている(文献23)。

 以上の場合はどれも、シグナル刺激に応答して活性化される遺伝子群を、平常時状態から刺激応答時の状態に変換する前提として、平常時の転写制御複合体(プロモーター部位も含めて)を解離させるために、Hsp90が必要であることを意味している。

22. Floer, M. et al. PNAS 105: 2975 (2008)

23. Sawarkar, R. et al. Cell 149: 807 (2012)