231106 投稿

piRNA合成系におけるHsp90/FKBP6の役割

ここでは、piRNA合成系おけるHsp90の役割について簡単に触れておきたい(piRNAの生合成と機能については、文献25の総説に詳しい)。piRNAの素材となるRNAは、piRNAクラスターと称するゲノム領域(多くはそのアンチセンス鎖)から転写される。素材RNAは特定のRNA切断系によってプロセスされるが、この段階でpiRNAの5’側が決定される。このプレpiRNAはPiwi複合体(マウスではMIWI複合体)に組み込まれる。引き続き、プレpiRNAの3’側のトリミングおよび2-O-メチル化によって成熟1次piRNAとなり、機能的Piwi複合体(piRISC)が完成し、核内に移行する。遺伝子silencingが重要な生殖系細胞では、成熟1次piRNAは細胞質において増幅ループにまわって、より多くの成熟piRNAの生合成にかかわる。

 Drosophila系において、プレpiRNAのPiwi複合体への組み込み過程にShu(マウスではFKBP6のホモローグ)が関与することが明らかにされている(文献27)。なお、FKBP6はHsp90のco-chaperonとしてよく知られている。また、Hsp90の機能を阻害剤で抑制すると、サイトゾルに多様な短いアンチセンスRNAが結合したPiwi複合体が蓄積する。Hsp90系は、これらの短いアンチセンスRNAを複合体から除いて、piRNA複合体をpiRNA増幅に使えるようにリサイクルしている可能性を、論文著者は示唆している(文献28)。さらに、Hsp90阻害剤は、プレpiRNAのPiwi複合体への組み込みを阻害するが、その後の反応ステップである、3’端でのトリミングとメチル化修飾は阻害しないことも、カイコ細胞の系を使って、示されている(文献29)。これらの分子機構が、Hsp90異常による形質発現異常の基盤(その詳細の解明はさらなる研究を必要とするが)をなしていると考えられる。

  1. Olivieri, D. et al. Mol Cell 47: 954 (2012)
  2. Xiol, J. et al. Mol Cell 46: 970 (2012)
  3. Izumi, N. et al. RNA 19: 896 (2013)