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今回は、新型コロナmRNAワクチンについて、最近出た論文を紹介する。

COVID-19 mRNAワクチンは実際にわれわれが何回も接種を受け、恩恵に浴してきた。2023年のノーベル生理医学賞が、Kariko博士とWeissman博士に授与された。このグループが開発したmRNAワクチンにはいろいろと工夫がなされていて、その一つがN1-methylpseudouridineを利用することであった。ChatGPT3.5によると、pseudouridineをuridineの代わりに使うと、①mRNAに対する免疫反応を抑制でき、②mRNAの体内における安定性を増加させ、③translationを改良する、と明快な説明がある。また、N1-methylpseudouridinについては、2022年1月までの知見によれば、という説明が正直に書いてある。N1-methylpseudouridineを利用したCOVID-19に対するワクチンの有効性は学術的に証明されている(例えば、Kim et al.の論文、Cell Reports, Aug. 30, 2022)。しかし、最近Cambridge大学が中心となって進められた研究は、N1-methylpseudouridineをmRNAに使うと、ribosome上でのtranslationの際に+1 frameshiftが起こるおこることを示した。その論文を以下に紹介する。

Mulroney, T. E. et al., 1N-methylpseudouridylation of mRNA causes +1 ribosomal frameshifting.  Nature 625: 189-194, 4 January 2024.

 

既に報告されているように、Ψ(pseudouridine)はmRNA stopを読み違える。一方、1-methylΨはそのようなmissreadingを起こさないようだが、タンパク質合成のrateを遅くし、mRNA当たりのribosome densityを増加させ、結果としてframe-shiftなどでtranslationに影響すると考えられる。modified ribonucleotidesがmRNA translationの正確性に与える影響についての知見は十分ではない。これらの知見の不足は、合成したmRNAを実際の医療に使用する上で障害となるであろう。実際に1-methylΨは世界中で使われているBNT162b2, a SARS-CoV2 mRNAワクチンなどに使われている。そこで、Cambriridge大学が中心となって行った研究の報告が出た。この論文では、1-methylΨを使うと、+1のribosome frame-shiftが起こることを、モデル系を使って証明した。また、BNT162b2ワクチンをマウスおよびヒトに接種したとき、spikeタンパク質の+1 frame-shift産物に対するT細胞免疫応答が起こることを示した。

 

まず、in vitroのタンパク質合成系で、1フレームシフトが起こったことを検出する系を構築した。ホタルルシフェラーゼ(Fluc)遺伝子から、コントロールとしてIn vitro-transcribed (IVT) mRNAsを作成した。次に、N端側の半分は正常のFluc配列だが、C端側の配列の前に1つ余分の塩基を入れ、+1 freme-shiftが起こるようにデザインした+1 frame-shift mRNAを合成した。後者のmRNAは正常に翻訳されれば、途中で1フレームシフトするので不活性のFLucができる。もし翻訳機構がなんらかの理由で、1つの塩基の読み飛ばしをすれば、活性をもったFLucが合成されるという仕組みだ。

 

FLuc+1FS mRNAをreticulocyte系でin vitro translationすると、活性のあるFlucは合成されなかった(Western blotで見ると、タンパク質は合成されていた)。1-methylΨ取り込ませたFluc+1FSmRNAをin vitro translationさせると、活性のあるFlucが合成された。この結果は、1-methylΨを含む+1 FSmRNAで1塩基読み飛ばしが起こったために、+1 FSのあるmRNAから活性のあるFlucが合成されたことを示している。1FS起こしたFlucタンパク質は、in-frameでtranslateされたタンパク質の8%に達した。また、HeLa cellsに上記のmRNAsをtransfectしても、1-metylΨを含むFluc+1FSmRNAから活性のあるFlucが合成された。

 

1-methylΨはBNT162b2, a SARS-CoV2 mRNAワクチンに使われている。マウスにBNT162b2を免疫し、SARS-CoV-2 spikeタンパク質 (overlappind peptide pools)および+1 FS産物 (peptides pools) に対するT細胞の応答を調べた。Splenocytesを+1FS spike productに対する反応をIFNγELISpot assayで調べたところ、BNT162b2免疫したマウスが明確な反応を示した。免疫していないマウスあるいは別のワクチン(ChAdOx1 nCoV-19)を免疫したマウスのsplenocytesは反応を示さなかった。2種のワクチンを接種したマウスのsplenocytesはどちらもspike peptidesに反応した。

 

実際に   mRNAワクチンを接種したヒトのT細胞に1FSしたペプチドに対する反応性があるかどうかを調べた。ビオンテック/ファイザー社のBNT162b2ワクチン接種した20人とアストラゼニカ社のウィルスベクラーワクチンChAdOx1 nCoV-19を接種した20人、それぞれの血液細胞(peripheral blood mononuclear cells)が、1FS抗原と反応するか否かをIFNγ ELISpotテストで調べた。どちらのワクチンを接種した人の血液細胞もin-frame SARS-Cov-19 spikeペプチドに反応したが、BNT162b2を接種した人の細胞は+1FS抗原にも反応を示した。この+1FS抗原に反応する反応は、接種した人の性別、年齢、HLA subtypeとの相関は認められなかった。

 

+1 ribosomal frame shiftが実際にmRNAのどの位置で起きたのかを調べた。1-methylΨFluc+1FS mRNAをモデルに使った。このmRNAをreticulocyeの系でtranslateし、FSの結果生じたと考えられるメインバンドをゲルから切り出して、トリプシン消化ペプチドにし、LC-MS/MS(マススペクトル)解析を行った。その結果、6個のin-frame peptides(N端側にマップされる)と9個の1FS peptides(C端側にマップされた)を得た。予期したように、1methylΨFluc mRNAのtranslate産物からも、短いFS peptidesが少量得られた。これらは、1methylΨの影響と考えられる。

 

論文著者らは、このframe-shiftがどうして起こるのかを追求した。1-methylΨ WT Fluc mRNAとWT Fluc mRNAのtranslationを比較した。予期したように、modified mRNAのelongationが遅かった。Paromomycinを使った実験などから、著者たちは、1-methyΨ mRNAのtranslationが遅いのはribosomal stallingによるもので、このときamino-acyl tRNAが1-methylΨを1つ飛び越して、次のmRNAの配列に結合してしまうらしい(本論文の解説:nature 625:38, 2024 N&Vに図解してある)。この結果、FSが以降の配列に生じる。

 

1-methylΨ Fluc mRNAのin vitro translation産物の中に、Fluc+1FS mRNAの産物と同じサイズの短いペプチドを見つけた。mRNA配列決定から、この短い産物に相当する部位を同定した。その部位のmRNA配列には、3つのpotential ribodome slippery sequencesが認められた。aaag, uuuc, uuuuの3つである(このuは1-methylΨである)。この塩基配列は1つslipしても、それぞれ同じLys, Phe, Pheをcodeしている。BNT162b2-spike-mRNAの配列には、uuucが6か所、uuuuが2か所認められる。これらの配列が+1 ribosomal frameshiftのsitesと著者たちは考えた。

 

これらの配列を、In frameではコードするアミノ酸は変わらないが、1+framefhiftすると別のアミノ酸のコードになるように変える。それによって、ribosome slippery配列をなくしてしまう。つまり、aaag→aagg, uuuc→uucc, uuuu→uucuと変えた(コードが一つずれるとGlu, Leu, Leuになる)。

 

Aaagのsiteで1FSが起きると直後にstop codon (uga)ができてしまうので、1-methylΨによる1FSがここで起こったとは考えにくい。また、aaag→aaggと変えても、活性のあるレポーターFluc(+1FSが起こると活性をもつFlucが合成される)が合成されるので、このsiteで1-methylΨによる+1FSが起きたとは考えられない。後者2か所は、上記の配列変化によってレポーター活性が認められなくなった。すなわち、1-methylΨによる+1FSはこれらのsitesで起こったと言える。すなわち、上記の塩基配列の改変によって1-methylΨによるframe^shiftを防ぐことができる。この技術は、mRNAを利用する医療手法の開発に有用と思われる。