まえがき

「進化」を、遺伝情報のセントラルドグマを基にして考えるとき、「遺伝子変異」と「表現形質の自然選択」が二つの基本事象とされる。「遺伝子変異」は“偶発的”に生じ、「自然選択」は結果的に生き残ることだから、このタイプの「進化」のモデルは、生物個体にとっては極端に受動的なシステムから成り立っていると言える。一方で、生物個体の能動性を重視した、ラマルクの「獲得形質の遺伝」は、「表現形質の変化が遺伝子の変化をもたらす」という異説であるために、正統的アカデミアからは退けられてきた。

 ところが、この10年、epigenetics研究の進展によって、epigeneticな獲得形質が「適応」にかかわり、しかもその形質が生殖細胞を通じて次世代以降にも伝達(inherit)される場合があることが、報告されている。しかし、epigenomeレベルの事象と、genomeレベルの事象は、いわば<次元>が異なるので、これをもってして「ラマルク説の復権」とするのは早計である。ただし、もしepigenomeの変化がgenomeの変化を導く仕組み、つまり、セントラルドグマと(見かけ上)逆の遺伝情報の流れがあれば、話が違ってくる。本ブログでは、この問題を考察することを、第一の目的としているが、ブログという性質上、話が一直線をゴールに向かって進むわけではないことを、あらかじめお断りしておく。また、生物学や医学にかかわる専門の研究者を対象にしているので、学術用語などは解説抜きで記述する。