2025年6月19日 投稿
Hubbellの論文紹介2
Engelbrecht, B. M. et al., Drought sensitivity shapes species distribution patterns in tropical forests. Nature 447: 80 (2007)
[概要]熱帯雨林のniche differentiation(環境要因)、とりわけその土壌の水分が植物相の第一因であることを示唆した研究である。
生態学者は、水の利用可能性と種の分化の相関関係に注目してきた。世界中の熱帯雨林や多くの非熱帯林の種の分布パターンに一貫して見られるのは、降雨量との相関関係です。また、これには局地的には地形が関係要因になっている。多くの熱帯林では年に一・二度の乾期が定期的に訪れ、季節性の乏しい赤道直下の地域でも、植物が干ばつストレスを受けるほどの乾燥期が続くことがある。そのため、降雨だけでなく、土壌特性や地形による乾燥期の水分供給の変動が、熱帯林の植物種のニッチ分化の主要因となると考えられる。当然、他の要因、例えば光の供給量、栄養源の存在、あるいは草食動物や病原体などが、樹林相の形成に関与してくる。そこで、潜在的な制限要因による種変化の応答を実験的に評価し、種特異的な応答と種分布の関連を明らかにする必要がある。
これまでに著者たちは、パナマ中部の熱帯性木植物の実生(苗木)が、干ばつへの感受性について、種によって異なることを明らかにしてきた。また、他のグループに研究は、パナマ地域において、地域的および局所的スケールの両方において、水分の利用可能性に関して非ランダムな分布を報告している。本研究は、干ばつに対する感受性の違いが、これらの分布パターンを説明する、という仮説を検証することを目的としている。著者らは、実生の干ばつ感受性に関する包括的な比較データを、パナマ中部の降雨量勾配に沿った種の地域分布データと50haの恒常森林地点の湿潤・乾燥環境に対する種の局所的分布データを連結・対比した。さらに、干ばつ感受性と種分布の相関が、種の耐陰性の違い(干ばつ耐性と耐陰性のトレードオフの関係)によって間接的に生じている可能性についても検証した。
干ばつ(乾燥)感受性を評価するために、48種の自生樹木と移植した低木の実生を使って、潅水実験を行った。種によって干ばつに対する感受性におおきな幅があり、それは広範囲かつ連続的な幅だった。別の実験によって、実生の干ばつ感受性の違いが、種ごとの干ばつ耐性の生理的メカニズム(葉の水ポテンシャルが低くても生存できる)の効果の違いによって説明できることを明らかにした。
地域的な種分布を推定するために、パナマ地域の両側(図1a)に2つの大きな調査区域(4~5ha)を設定し、植物種の密度を調べた。その結果、乾燥した太平洋側の種の密度の、湿潤な大西洋側の同種の密度に対する比率を調べた結果、野外実験によって評価されたその種の乾燥感受性と負の相関を示した(図2a)。また、地域全体に広がる122か所の調査スポット(図1a▽、□、△それぞれ一か所、〇119か所)のデータによると、実験で得た乾燥感受性が、その種が乾燥側か湿潤側のどちらに出現しているか、という種の分布傾向を予測できることが明らかとなった(図2c)。乾燥感受性のあるバンレイシ(Annonaceae)は湿潤な大西洋側に認められた(●)が、乾燥した太平洋側では認められなかった(〇)。つまり、野外実験で乾燥感受性が高かった種(乾燥に弱い種)ほど、気候勾配の湿った側に多く見られた、という結果になった。

限定的地域のスケールでは、Barro Colorado Island (BCI)の50 haの地域の乾燥した台地と湿った斜面の種の密度を調べた(図1b)。苗木と成木のいずれにおいても、乾燥した台地の種の密度が湿潤な斜面の密度に対する割合は、乾燥感受性と有意な負の相関を示した(図2b、d)。さらに、乾燥感受性が高くても、幼木の間は乾燥台地にあるていど付着できるが、成木になるとできなくなる、ということを示唆する結果も得た。

上に述べた、植物の乾燥感受性と地形の水の利用可能性の関係を示したが、この相関は種の陰影感受性の違いから生じる間接的関係かもしれない。例えば、乾燥感受性と陰影感受性の間にトレードオフが成り立ち、かつ水分の多い場所ほど光量がすくなくなる場合を指摘する論文もある。しかし、今回の調査のデータでは、乾燥地と湿潤値のどちらに種が多く見られるかという分布パターンと、種の光要求性の程度には相関が認められなかった。また、乾燥感受性と光要求の程度の間にも相関は認められなかった。これは、温帯植物において、乾燥感受性と陰影感受性の間にトレードオフがあるとする研究結果とは違っている。若い二次林と成熟林、林冠ギャップと林床の間の種の分布の違いの決定に、光が重要な因子であるのが明らかであるにもかかわらず、そうなのである。
水利用と栄養分摂取の間に相関がある場合があるが、本調査のデータでは、水分と栄養の利用可能性の間に有意な相関は認められなかった。もちろん、この結果は、熱帯林における栄養の利用可能性が種分布を決める一因子であることを否定するものではない。本調査結果は、熱帯林の種構成が水利用可能性に敏感に応答していることを示した。また、将来的な水文学的プロセスや降水パターンの変化が熱帯雨林の種分布、樹木の集合構成や生態系機能に直接的に影響する可能性を指摘している。註:水文学(スイモンガク)とは、地球上の水循環を主な対象とする地球科学の一分野。実際、過去の熱帯地域の降水パターンの変化と熱帯林の断片化の相関などが観察されており、地球規模の気候変動がより大規模な変化を導く可能性が予測される。