2025年5月27日 投稿
Stephen P. Hubbellの続き
分散、存在頻度、密度依存性
これまでは、普通種(全体の1/3の樹種)を見てきたが、希少種の分散はどうなっているか?もし、希少種の個体がランダムか、あるいは均等に分布していれば、直近隣接個体との距離は、平均密度の平方根の逆数と同じか、それ以上の大きさとなるはずだが、結果はそうでなかった(既出、図1)。要するに、稀少さが増すと、分布の偏り(集団化)が強くなる傾向が見られた(図6)。集団化している局所の環境に、稀少種が適応しているという可能性は否定できない。このデータは、14m四方の中に存在した87種類の樹木の数のdispersion pattern(log Iδ)を調べたものである。点線丸で囲った7種は例外的に育った巨木で、偶然生えているものと考えられる。また、希少種と普通種で自家受粉可能な種の割合が違うということもないので、質問ⅶに対する答えは、「関連しない」、である。

各種について、dbh(胸高直径)の中央値を基準として分布のskewness(歪度)を見ると、大きな成木が大量に存在する種は、歪度が正あるいはゼロとなり、若木が多い種は負となる(図7)。希少種(図の左寄り)koは、dbhの中央値について正またはゼロの歪度となった。この結果は、希少種の若木の定着速度が一般種より遅いことを示す証拠である。図6の7種の例外的巨木は、近隣の場所には一般的に見られるので、繁殖に失敗した種の生き残り個体と考えられる。したがって、このことは、この森林が非平衡状態にあることを、間接的に示唆している(質問ⅸ)。

一般的な樹種の個体数が、密度に応じた草食や種子捕食、あるいは他の密度依存的な過程によって、空間の独占に至らず制限されている場合、希少種はより長く生存するであろう。特殊化した草食動物による種子捕食が激しい場合、かなりの間引き効果があるはずである。仮に、種子や実生の捕食が、成木の平均的位置からの距離とは無関係なランダムな間引きであっても、成木のかたまりの中の1個体当たりの繁殖成績を、より孤立した個体の値より低くする可能性が十分にある。間引き効果の密度依存性は一般的な30種の内、17種(57%)において顕著に認められ、残りの13種にもある程度認められたが、確率論的に断定することはできなかった。密度依存性は、少数の大きい種子を作る種(哺乳類によって散布される種)よりも、小さい種子(風や鳥によって散布される種)のほうが、はっきりしている。この密度依存性の原因はなにか?もし、密度に応じた種子および実生の捕食が密度依存性の原因であれば、激しく攻撃される種は、強い密度依存性を示すと予想される。しかし、実際は、大きな種子をもつ種のほうが、小さな種子をもつ種よりも、宿主特異的な種子捕食者によって攻撃されている(ゾウムシ科の一種など)。別の仮説として、1個体当たりの種子産出量が密集した成木では減少する、というのがある。他の可能性もある。
種の優先度と多様性の関係
熱帯の陸上植物集団が温帯や亜寒帯の集団に比べて、種類がはるかに多いことは、以前から明らかであった。しかし、種の豊富さを定量的に比較できる十分に大きなデータセットが利用できるようになったのは、ここ25年ほどのことである。植物集団の種を現存量、basal area(胸高断面積)、あるいは年間一時生産量を指標にして、大きい種から小さい種まで並べてみると、普通の種から希少種まで連続的な分布が形成され、大きな不連続性は認められない。各種の重要度(上記の指標の大きさ)を対数変換し、種の重要度順位と共にプロットすると、それぞれの植物集団について、特有の「優先度と多様性」を示す曲線が得られる。
本研究で得られた熱帯乾燥林(北緯10度、Costa Rica)の優先度と多様性曲線と熱帯雨林(赤道、Amazon)、種数の多い

温帯林、および山岳林のそれぞれを比較したのが、図8である。熱帯林は温帯林と同じような一般的な対数正規型の曲線を示したが、その分布曲線は位置と変化が違っている。乾燥林における順位1位の種の重要度は11%であるのに対し、amazonの熱帯雨林ではわずか4.7%である。北緯35度の種数の多い温帯林では、順位1位の種の重要度は11%である。また、山岳林のトウヒ・モミの林では65%まで増えている。
非平衡状態の集団における種の相対的豊富さ
図8で見たように、温帯林と熱帯林の優先度と多様性曲線の類似性は、二つの地域の樹木種の相対的な豊富さを制御しているプロセスが似ていることを示唆している(質問ⅹ)。Mayは、対数正規分布の種の豊富さのパターンに過剰な意味を読み取ることを警戒している。その理由は、多くのランダムな変数が複雑に折り重なると、見かけ上そうなるからである。最近、Caswellは、neutral-allele modelsに基づいた集団構成と種の豊富さについてのneutral modelsを提出したが、どのモデルからも対数正規分布の種の豊富さのパターンは得られなかった。
別のアプローチもある。ある環境では対数正規分布を示し、別の条環境では幾何学的分布(geometric patterns)を示すような別の理論である。このモデルは、本質的にMacArthurの「broken stick」仮説の動的バージョンであり、集合の構造の非平衡的解釈に依拠している。(註:MacArthurのbroken stick hypothesisとは、種多様性と資源の分割に関するエコロジー理論の一つで、異なる種が限られた資源をどのように分割して利用するかを数学的に説明するモデルである。1960年代にRobert H. MacArthurによって提唱された。以上、Chat gptより引用)。仮に、森林が樹木で飽和しており、それぞれの樹木が林冠の利用空間を占有していると、それらの樹木が損傷や死亡しない限り他の樹木の侵入を防いでいる。森林が飽和しているとは、種に関係なくK本の個体が存在している状態と定義する。そこで、風害や地滑りなどによって、D本の樹木が死んだとする。この死は種に関してランダムに起こり、各種の損失はその時点での相対的な豊富さに比例すると仮定する。次いで、新たにD本の樹木が成長し、攪乱によって生まれた「空き」を正確に補う。これによって、集団は次の攪乱が来るまで元の飽和状態に回復する。このとき、それぞれの種が新たに加わる個体数の機体割合は、攪乱後の集団内での種の相対的豊富さに比例するとする。そして、この攪乱と再飽和のサイクルを何度も繰り返す。このモデルでは、新しい種の移入や局所的絶滅によって失われた種の再定着がない限り、最終的には単一種の完全な支配へと収束する。しかし短期的には、このモデルは対数正規型の種の豊富さのパターンを導き、中期的にはgeometricパターンになる。環境攪乱による死亡数Dと集団の大きさKとの比率が、局所絶滅による種の多様性の現象速度制御を決める。Kに対するDの割合が大きいと、特定の種の絶滅までの時間が短くなり、種の豊富さをしめすパターンはgeometricパターンに近づく。
外からの移入のない40種の集合における、相対的種の豊富さのランダムな分化を図9に示した。同じ集合体から始まって、25回の攪乱後、種はおおよそ対数正規型の優先度・多様性曲線のセットを示す(図9A:横軸はその種の豊富さの順位、縦軸はその種の個体数)。250回の攪乱後、種はおおよそ幾何学的な曲線のセットを示す(図9B)。もちろん、これらの一時的な分布は完全な対数正規あるいは幾何学的というわけではなく、希少種による、いわゆるtailoff現象を示す。

集団のサイズ(K)が大きくなると、攪乱による一定の大きさのD(死滅する木の数)の場合、ある特定の種が絶滅するまでに必要な攪乱の数がいちじるしく増加する。例えば、集団が512本の樹木から、1回の攪乱で8本の木が失われる場合、個体数256本の樹種が完全に絶滅するか、あるいは生き残る唯一種になるには、平均して90,000回の攪乱が必要になる。図10の見方:横軸は集団の樹木の総本数。縦軸は絶滅あるいは完全優位種として生き残るのに必要な攪乱の回数。上のケースでは、D=1/64Kである。

しかし、新しい種あるいは既存の種の移入が許容されている場合、最終的な一種による完全な独占は回避される。そして、種の移入と局所的な絶滅との間に確率的な平衡が成り立つ。その結果として現れる相対的な種の豊富さのパターンは、移入が攪乱によって減少した種の多様性を補う上での重要度に応じて、対数正規分布に近づくこともあれば、幾何級数的分布に近づくこともある。局所的な絶滅の速度が移入を上回ると、相対的な種の豊富さのパターンは幾何級数的型に近づく。
これに対して、移入のペースが絶滅速度を上回る場合、移入種が集団内に蓄積され、豊富さのパターンは時間と共に対数正規分布に近づく。しかし、有限の大きさKという空間により多くの種が詰め込まれるにつれ、いくつかの種がランダムウォーク的に極度な稀少な状態になり、一般的な種と比較して、単位時間当たりの局所絶滅のリスクが高くなる。その結果、移入速度と釣り合って、集団における種の増加が止まる。
森林の局所集団における種の優先性と多様性のパターンが緯度によって違うことは、以下の条件の下で、上記のモデルに従う。(ⅰ)移入の供給源となる種のプールが、熱帯よりも亜寒帯や温帯において貧弱である。(ⅱ)亜寒帯および温帯において、熱帯より攪乱の頻度や強度が高い。これらの条件が実際に満たされているかはまだ明らかではない。亜寒帯や温帯において種の多様性が持続的に低いのは、更新世(氷期)における高い絶滅率によるのかもしれない。歴史的には、亜寒帯および温帯の森林は火災、害虫被害、強風などによって頻繁に攪乱されてきた。やや長期的な時間スケールでは、古生態学的証拠によって、温帯落葉広葉樹林における間氷期が、次の氷期が始まるまでに平衡状態に達するには短すぎたことは明らかにされている。
一方、赤道直下の森林における攪乱は、局所的(大規模でない)な現象であり、風で吹き倒される木々の数は通常少ない。実際、乾燥林の樹木種の集中的な分布パターンは、本質的に様々な年代の絶滅再生ギャップが重ね書きされたような森林構造、つまり「パリンプセスト」(古文書の断片の寄せ集め)であることを示唆している。しかし、更新世における熱帯気候の安定性について、赤道地域における最終氷期および中期完新世に長期の乾燥期間があったという証拠が増えてきており、確実とは言えない。
もちろん、上記のモデルは自然の集団の動態を過度に単純化したものである。しかしながら、それでもいくつかの重要な考察を提供してくれる。第一に、一種の「集団ドリフト」現象の結果として、自然の集団における種の相対的豊富さが分化することが予想されることである。第二に、ある種が集団の豊富さ第一位であるからといって、その現在の成功が競争的な優位性や「ニッチの先取り」(niche pre-emption)といった局所環境に対する優れた適応によるものだとは必ずしも言えないと、示唆されたことである。と言うのも、このような単純なモデルでも、自然の植物集団に診られる種の相対的豊富さの基本パターンが再現できるからである。したがって、競争的優位性の証拠としては、むしろ対数正規分布や幾何級数型分布からの“ずれ”を指摘するべきである。最後に、森林集団が平衡状態にあるか否かにかかわらず、集団の構造を理解するためには、種間の競争やニッチ分化、種子捕食といった従来の生物的相互作用の研究に加えて、攪乱・移住・局所絶滅といった過程の研究を推進すべきである。