2025年4月22日 投稿

Stephen P. Hubbell, Tree dispersion, abundance, and diversity in a tropical dry forest. Science 203: 1299-1309 (1979)

生物多様性と生物地理の統合中立説」の基になる研究である。先の長い話になるが、ゆっくりと読みたい。

熱帯樹林の種に関して一般的に受け入れられている観察結果は、「ほとんどの種の成木の密度が非常に低く、比較的一様に分布しているので、同一種の成木個体はばらばらにしかも均等に配置されている」、とするものである。この観察結果が一般化できれば、繁殖生物学、個体群の構造、そして進化にとって重要な意味をもつであろう。本論文では、この一般化が特定の熱帯樹林で成り立っているかを判定しようとするものである。

 この一般化は、Wallace (1887)までさかのぼれる。彼はマレーシアの森林について、「旅行者が森林である種の木に気づき、それと同じ木を探そうとしても、周囲には見当たらない」と書いている。Dobzhanskyも、「アマゾンの森林では、樹種の半分以上が1ha当たり1本未満の成木密度である可能性が高い」と記述している。

 成木の低密度かつ一様な配置という一般化は、どの生態学の教科書にも載っている。Janzenは、種子の捕食者と種子の生存に関係からこれを説明しようとした。すなわち、地上に落ちる種子の数は成木から離れると少なくなるが、種子が捕食される割合はそれ以上に成木に近いほど高い。Connellは熱帯雨林の研究から、若木の成長は同じ種の成木の樹下に植えた場合よりも、異なる種の樹下に植えた方が、生存率が高いことで、説明しようとした。現在の知見では、熱帯雨林の樹木の自家不和合性や外来受粉の必要性が明らかになっている。また、花粉の運び手は風ではなく動物が主である。

乾燥樹林の特徴

ここからが、Hubbellたちの研究結果である。本研究はコスタリカの13.44 haの乾燥林で行われた。この地域のdbh(胸高直径)が2cm以上のすべての樹木を地図に記入した。個々の樹木の地図上の位置、dbh、若木か成木かの区別などが、コンピュータ内の記録とした。

 このデータを基にして、以下の質問に部分的あるいは完全な答えを出すために、解析を行った。

ⅰ.成木の分布は一様か?

ⅱ.成木は若木あるいは全体の個体群より、まとまりが少ないか?

ⅲ.特定の成木からの距離がはなれると、成木あるいは若木の密度はどう変化するか?

ⅳ.若木から成木に成長すると、他の樹木からの距離はどう変化するか?

ⅴ.ある成木からもっとも近い成木の距離はどのくらいか?特定の成木からXm以内の範囲にどのくらいの数の成木があると予想されるか?

ⅵ.樹種の稀少性とその分布パターンに関係があるか?

ⅶ.種子の散布や繁殖様式は、個体数や分布パターンと関係があるか?

ⅷ.成木の個体あたりの繁殖効率が、密度に依存するという証拠はあるか?

ⅸ.森林が平衡状態にあるか、あるいは非平衡状態にあるかについて、暫定的な答えがあるか?

ⅹ.乾燥林における相対的な種の存在量のパターンはどうか、またそれは緯度帯の森林と比べるとどうか?似たパターンがあるかどうか?

 質問ⅰからⅳは、Jansen-Cornnell仮説を評価する上で、重要である。質問ⅴとⅵは、潜在的な花粉を運ぶ動物の飛行する距離に関係している。質問ⅶは、風や鳥によって運ばれる比較的小さな種の拡散と、水や獣によって運ばれる大型の種の拡散には、成木あるいは若木の分布パターンに体系的な違いがあるか検証できる。また、雌雄異株と両性花株の違いの問題とも関連する。質問ⅷは熱帯樹木の個体数の決定に関する問題である。例えば、成木密度と繁殖成功率の関係とか。質問ⅸは、森林が平衡状態にあるなら、希少種も一般種と同様に自己再生している結果が得られるし、非平衡状態にあるなら、種の増減が見られるはずである。質問ⅹは、熱帯、温帯、亜寒帯森林における種の優位性と多様性のパターンに類似性があるかどうか、なければ、それらのパターンはどう異なっているかの、説明に関連する。

調査地点

Costa RicaのGuanacaste州の森林調査地点は、送花粉者集団(昆虫、鳥類、コウモリ)や様々な樹種の繁殖の調査研究が行われてきた乾燥林である。調査地域には、内径2cm dbh以上の樹木が135種類(上層および下層の樹木87種、低木38種、つる植物10種)が記録されている。乾季(12月~5月)に落葉する樹木が多い。樹冠は不連続で(高さ15~25m)、樹冠被覆率は約87%である。下層の植物として、多様な樹木の実生や低木が見られる。

 調査区域は縦420m、横320mの長方形のエリアで、20m四方に分画された336区画からなる。dbh 2cm以上の木を1m以内の精度で、地図上にマップした。各樹種について、開花あるいは結実の状態なども記録した。種ごとにCalcomp社のプロッタで

地図を作製した。幼木および成木の分布は、さまざまな区画サイズについて、Morisitaの分散指数によって解析した。成木から様々な距離の幼木および成木の密度の測定も行った。1個体当たりの再生産効率の密度依存性のテストは、もっとも多い      30種を対象にして行った。この場合、各区画内で数えた成木は、同じ区画内の幼木の親であると仮定している。ただし、この仮定の正当性は種子の散布様式によって異な

る。

成木と幼木の分布パターン

図1は、61種の成木について、縦軸に隣接する成木との距離(m)、横軸に成木の数をプロットした結果である。引いた直線は、隣接する成木との距離がランダムな場合である。すなわち、プロットをみると熱帯乾燥林の種の成木は森林内に一様に分布しているわけではないことがわかる。44種(72%)では、成木の分布は集団(線の下側)をなす傾向があった。17種「28%」では、成木の分布はランダム(線の上)であった。均一(線の上側)に分布している種はなかった。

図1.原著より引用。

 もっともありふれた30種の中から5種を選んで、区画のサイズを一辺2mから196mまで増やしたとき、Morisita’s index (Iδ)の変化を調べた結果である(図2)。x軸が区画のサイズ、y軸がindexである。Morisita’s indexは、生態学で分布パターンの偏りを検出するもっとも信頼性の高い指標である。指数Iδは(nΣxi (xi-1)/N (N-1)で算出される。Nはサンプルのユニット数。Xiはi番目のユニット内の個体数。Nは個体総数(すべてのXiの合計)である。すべての種は、小さい区画ではI値が高く、区画を大きくとると1(ランダム分布の場合)に近くなった。この結果は、比較的高密度の集団源があり、それを中心として個体密度が減少するような分布に適合する。小さな区画では、この高密度点を含むのと、含まないものに分かれるので、I値が高くなる。

 図2の結果によると、左上(Cochlosperimum)と左下(Licania)の種では、幼木(J)のほうが成木(A)よりもクラスター化が強く、左中(Hymeneae)と右下(Thouinidium)では逆に幼木のほうが成木よりクラスター化が弱い。したがって、質問ⅱに一般的な回答はできない。一般的に言えることは、調査範囲が狭いと、どの種においてもindexが高くなり、1~2haの狭い熱帯樹林の領域では、パッチ状の樹木分布が見られるということである。

図2.原著より引用。

平均的な成木のdemographic neighborhood

樹木のdemographic neighborhoodとは、特定の半径内に存在する同種の成木と幼木の個体数として定義する。「平均的成木」とは、この研究においては、それぞれの種の成木のdemographic neighborhoodとしてみなすことのできる成木を意味する。もっともありふれた30種についての結果は、成木および幼木の密度は、平均的な成木から距離が離れるにしたがって指数関数的に減少するか、または密度が変化していなかった(論文では5種の結果が示されているが、ここではThouinidiumの結果だけを図3に示す)。この結果は、種の捕食者のせいで成木近傍では密度は減るという、Janzen-Connellの説を支持しない。30種の中に、距離が離れると個体数が増えるというものは一つもなかった。そして、どの種も群生している。

図3.原著より引用。

 種子、実生、幹の直径が2cm以下の幼木は、地図化していないが、生存幼木の密度がもっとも高いのは、通常、成木にもっとも近い円環領域である(死亡を免れて、生き残った幼木)。

 サンプル5種について、成木からの距離(5m単位で分け、50mまで)にある成木および幼木の密度を調べた。結果は、表になっているが、ここでは煩雑なので示さない。2種では、成木と幼木共に成木からの距離が変わっても相対密度は同じだった。これらの種については、木が成長につれてランダムに間引かれるという説を否定できない。残る3種では、成木に近い範囲のほうが成木の相対密度が高く、幼木の密度は成木から離れていてもある程度一定だった。この説明として、成木はすでに最も適した場所に位置を占めていて、外縁部では生育の適合性が低いという可能性が指摘できる。

 質問ⅴは、pollinator(花粉を運ぶ生物)の移動という観点から見た樹木の間隔についてである。最も一般的な30種の中で、16種では隣接成木までの距離が20mであり、全種でもその距離は40m以内である。これらの30種では、1本の成木から半径50m以内に平均5.6本の他の成木があり、半径100m以内に12.7本が存在していた。土地の面積が4倍になっても、成木の数は2.3倍にしか増えていないのは、成木がある程度かたまって分布いていることを示唆している(図4)。

図4.原著より引4.

 平均的な成木のdemographic neighborhoodは単一の成木からのseed shadowsと同じではなく、複数の成木の重なりとなっている。しかし、それでもなお、成木から離れるほど密度が負の指数関数的に減少するという特徴は維持されている。これは種子の分散が比較的単純な物理的・生物的メカニズムによって支配されていることを示唆する。

 当然のことながら、種子のサイズや分散様式の違いは、密度曲線の傾きに影響を与える(質問ⅶに関連)。指数関数的な密度曲線の対数変換を行うと、種の絶対的な個体数や種子生産量に影響されない直線様になり、種同士の比較が容易になる。図5は、種の分散のモードとして、動物の糞、風による散布、鳥とコウモリの糞による散布の3つを比較した結果である。縦軸は下降線(ln)の傾斜であり、動物は種を運ぶ距離が短く、鳥とコウモリはより遠くへ運んでいた。本研究の結果によれば、哺乳類散布における種子の分散と若木の生存が、風や鳥による散布よりも、よりleptokurticの傾向が強かった。

図5.原著より引用。

 

ここまでで、本論文のやっと半分を読んだだけだが、まだ先が長いので、ゆっくりと読みたい。まるで素人が、どうやって「中立説」にたどりつくか、やってみないとわからない。