2024年11月11日 投稿
オオシモフリエダシャクのcortex geneの論文に続いて、ドクチョウの擬態とcortex geneの論文を紹介しようとしたが、蝶の紋様形成について、あまりにも無知なので、最初から勉強するつもりで、蝶の翅の蛇の目模様の形成の仕組みの論文を読んでみることにした。また、最新のCell Reportに、阪大の近藤滋さんのラボから、新しい観点から解析した蝶の紋様の論文が出ているのを見つけた。このシリーズの中で、できれば紹介したい。
蝶の翅の目玉模様のでき方
蝶の翅の模様は多様であるが、その代表的なのはタテハチョウ科の蝶の目玉模様(蛇の目模様)である。蝶の種類によって、目玉模様は、数、サイズ、前翅か後翅か、など多様なタイプがある(ジャノメチョウ亜科やタテハモドキ亜科に多い)。最初に取り上げる論文(文献1)は、Precis coenia (Nymphalidae)の翅のthe circular pattern of pigmentationを取り扱っている。
発生途上に、eyespotのorganizerを焼き切ると、成虫の翅のeyespotが欠損し、逆にorganizerの部位を別の体位に移植すると、そこにeyespotが生じる(文献2)。蝶の翅のeyespotsは多様な模様となっているが、本研究では、eyespotsの形状を決めるのに関与している他のdevelopmental organizersを分子レベルで解析した。
ハエと蝶は、進化の過程で、約2億年前に系統分枝したが、両者は発生学および遺伝学的に類似点が多い。Drosophila melanogasterの翅のorganizationとpatterningは詳細に研究されてきた。そこで、Drosophila wingless and decapentaplegic signaling moleculesおよびapterous, invected, acalloped and Distall-less transcription factorsのPrecis coenia homologs(cDNAs)をcloningし発現を調べた。
各cDNA配列の比較が詳細に記されているが、ここでは省略する。Drosophilaのimaginal discのanterior-posterior (A-P)とdorsal-ventral (D-V) compartmentsは、転写因子engrailedおよびapterous (ap) homeodomain-containing selector proteinによって、それぞれ規定される。D-V boundaryはwing edgeやmarginを形成し、wingless proteinに規定された特有のpattern elementsを有している。Wing perimeterはdistal cellsを含み、そこではDistal-less (Dll) geneが発現している(図1A)。

Drosophilaと同様に、蝶のwing discはap geneの発現によってdorsalとventralに区分されている。P. coeniaのap geneはどのstageでも、前翅および後翅のdiscsにのみ発現している(図2A)。この発現パターンは、apがdorsal cellの運命を指定する役割りや、翅の形成にかかわるgene regulation、さらにはD-V細胞間の相互作用の調節に関与していることとつじつまが合っている。また、蝶の翅の模様がdorsalとventralで違うことがあるので、D-Vの位置情報が色模様の調節をしているのかもしれない。

Wingless gene expressionのパターンも、蝶のD-V構成がハエと同じであることを示唆している。Drosophilaでは、wgが翅の周囲のpatterningを決めているが、P. coeniaの5齢幼虫のwing discにおいても将来翅になる部位の縁の細胞でwgが発現している(図2C)。ハエの3齢幼虫と蝶の5齢幼虫のwg発現パターンが類似していることは、両者の翅形成の仕組みが同じであることを示唆している(図2C)。
P. coeniaのwing discの前後軸の構成は、他の昆虫などの体節や付属器官と同じように、en/inv選択遺伝子の発現を反映している。Invected geneの発現は、成虫の前翅と後翅のR2およびM1脈になる気管(空気が通る管)の間を境界としている。しかし、この境界は、P. coeniaの翅のパーターン要素、例えば目玉模様の境界とは一致していない。
ハエのwing discの発生指令図は蝶のものとは違い、discは翅(distal)および体壁(proximal)に発達する。蝶のdiscは翅だけになる。翅の形成にかかわるsd geneが蝶のwing disc全体に広く発現していた。蝶のwing discには体壁の原基がないのに、P-D構造はハエのものによく似ている。Dll (Distal-less) homeobox geneはハエの翅の縁に沿って広く発現しておいるが、これは翅の最もdiatalな細胞群である。蝶のwing discにおいても、Dll geneはdistalな部位においても発現しており、明確なproximal boundaryを有している。
総合すると、蝶とハエのこれらの遺伝子発現のパターンの類似から、両者の翅の領域は似た様式で組織化され、調節されていることを示唆している(図4A)。これらの発現様式から、昆虫の翅の組織化においてD-Vの区画化が基本的な仕組みになっていることがわかる。蝶の翅のパターン形成は、翅の翅脈と縁によって区切られた領域(翅の細胞)が基本単位となっている。基本単位内の細胞の発展は、他の区切り内の細胞の発展とは独立に進行する。全体の翅パターンはこれらの独立した領域の組み合わせとなっている。
上記のものも含めてどのmolecular probesも、蝶のwing cellsには、ハエにはみられない、discreteパターンがあることを明示した。Dllの転写部位は、第5齢幼虫の前翅と後翅のdiscsで、翅の縁になる部位から複数のwing cellsの中間線に沿って伸びている(図1B)。前翅と後翅のdorsal and ventral部位のCu1-Cu2 wing cellsでは、Dllの転写は近位地のspotとして見られる(図1C前翅とD後翅の→)。それらは、成虫の翅にみられるeyespotsに対応している(図3EとF)。発生時のDll 発現を経時的に見ると、spotが大きくなっている(図3A―C)。spotは約200 cellsから成る(図3Cを拡大したのが3D)。蛹になるとspotを構成するcellsは300に増える。

各wing cellには、Dllの線状配置やspotsの他にも、多くの座標系があり、細胞の性質を決めている。例えば、wg (wingless) geneは翅の縁から内側に向かって、脈管から離れた平行の2本の線状領域で転写されている。Dpp geneはwgの線のすぐ外側に発現しており、wg線よりより内側まで伸びている(図4F, 4G)。wgとdppは分泌型成長因子であり、Drosophilaの胚のlimb primordiaにおいてDll regulationに関わることが示されている。これらの因子が、蝶のDllの線状配置にかかわるのかもしれない。翅の縁から放射状に伸びるwgの線は、翅の縁沿に平行なparafocal elements or submarginal bandsの形成に関与するのかもしれない。これらの遺伝子発現パターンが、蝶の翅の紋様の配置を決めていると考えられる。しかし、P. coeniの翅には、眼玉紋以外にはwgやdppの線状パターンやDllの近位領域に対応する発現パターンは残っていない。

Dll homeobox geneの円形の発現様式は、P. coeniaの翅の目玉模様の位置に対応し、模様の形成はeyespot focusが決まるときに始まっている。模様形成において、Dll gene産物が特別の役割を果たしていると考えられる(註:この時点では具体的には不明)。Drosophilaでは、Dll発現はlimb primordiaの形成、つまり頭部および胸部の付属肢のproximodistal axisを構築することに関与している。Dllはembryonic segmentsや成長中のimaginal discにおいて円形状に活性化される。こうみてくると、蝶のeyespotは、二次元の翅面に重ねつけられたproximodistal elementのようである。すなわち、眼玉模様の中心(focus)はdistal-most positional value(もっとも強くDllを発現する)にあり、次第にproximal positionsを有する円によって囲まれている(註:図4Bと4Cの比較)。目玉模様領域では、細胞間相互作用や拡散性因子の働きが単一細胞層に制約され、形成されたproximodistal axisの位置に応じてpigmentationが決まるのかもしれない。この単一平面で作用する分泌性成長因子(wgやdpp)の組み合わせと、新しいパターン形成axisに沿った調節因子(例えばDll)の活性化によって、円形のパターンが形成される可能性がある。
文献1.Carroll, S. B. et al. Science 265: 109 (1994)
文献2.Nijhout, H. F. Dev. Biol. 80: 275 (1980)