240905投稿

Evolution of a Polyphenism by Genetic Accomodation(文献18)

同じ遺伝子セット(genome)を持つ生物個体が、環境の違いによって異なる表現型を示す事象をpolyphenismsという。要するに、epigeneticsの問題である。例えば、ハチやアリのような社会性生物のカースト制、サバクトビバッタの孤立相と群生相、アリマキの有翅型と無翅型、あるいはチョウの春型と夏型、などなどいくらでもある。このような、表現型が転換する刺激に関心をもち、多くの研究がなされてきた。本研究もその一環であるが、実験系が単純なのと、polyphenismsの進化につながる糸口が見えているので、面白い。このブログで論じてきたHsp90関係の研究との接点もはっきりしている。

Manduca sexta(タバコスズメガ)の幼虫の体色は緑である。近縁のM. quinquemaculataの体色は20℃で黒であるが、28℃では緑である。M. sexta(5齢後期幼虫)の体色は安定で、熱ショック42℃、6h処理によっても変化しない。M. sextaには幼虫の体色が黒い変異体がある。その変異はsex-linkedで劣性であり、juvenile hormone(JH)のレベルが低い。このホルモンレベル低下が幼虫表皮のメラニンを増やしている。外部からJHを投与することで、体色黒化を防ぐことができる。

 変異体の4齢幼虫は、20℃~28℃で黒色である。4齢幼虫を42℃、6hの熱ショック処理をすると、脱皮した5齢幼虫の体色が変化し、元の黒色から緑色まで様々な体色を示した(図1)。熱ショックによって誘導された多様な表現型を示す幼虫から、2つの系統を作成した。一つは、熱ショック処理によって緑化した幼虫のスズメガの系統A(polyphenic line)、もう一つは、体色変化しなかった黒色幼虫のスズメガの系統B(monophenic line)である。

図1.

 それぞれ300の幼虫を使い、世代ごとに熱ショック処理し、60匹の目的の表現型を示す幼虫を選択し、次の世代を作成した。

 コントロール実験として、選択しないで飼育した幼虫の系統も作成した。

 選択実験を繰り返すと、熱ショックによって誘導される幼虫の体色のスコアは、図2のようになった。すなわち、緑化スコアの大きいlineは世代を重ねると、ますますスコアが増え、黒色のラインはますますスコアが低くなった。つまり、系統Aでは熱ショックに対する応答様式は次第に強くなり次世代に伝達された。系統Bの黒色のラインは、6世代後にほぼ完全に熱ショック応答性(緑化するという)を失った。

図2.文献18より引用

 体色変化のHeat-shockに対する感受する時間とJH-sensitiveの時間は、同じである。黒色変異体にJHを局所投与すると、黒色の表現型を緑色の表現型に変えることができる。Dopa decarboxylase (DDC)はmelanine合成において、dopaをdopamineに変換する酵素であるが、JH-snsitive時間の16時間後に合成される。したがって、熱ショック処理を、melanine合成のこの時間より前に行えば効果を発揮する。

 JHあるいはecdysteroidsはmelanine合成の調節にかかわるという報告がある。これらのホルモンはthoraxのprothoracic glands、あるいは頭部の脳とcorpora allata(アラタ体)から分泌される。どちらのホルモンか緑化にかかわるかを調べた。Polyphenic linesの幼虫の腹部体節で結紮を行うと、heat shockを与えた時、結紮より前方の体色は緑になるが、後方は黒色となった(図3A、3B)。Monophenic linesの幼虫を腹部結紮した場合、当然ながら緑化は起こらなかった(図3C)。Polyphenic linesの幼虫の頚部を結紮した場合、heat shockを与えても、緑化はまったく起こらなかった(図3Aの右下)。これらの結果は、脳とアラタ体からの信号が体色の緑化に必要なことを示している。JH analog, methopreneを結紮より後部に塗布すると、当然のことながら、polyphenic linesでもmonophenic linesでも緑色化が起こった(緑色化が起こらなかったのは、JHに対するsensitivityの欠損が原因ではない)。

図3.文献18より引用

 本研究では、JH合成の調節系の欠損突然変異(monophenic黒化型)を有する個体が、高温処理によって次第に緑化する能力(heat shockを必要とするが)を獲得してゆくプロセスを示した。選択と継代によって、能力が高まるので、いわゆるgenetic accommodationの例である。最終的にはheat shockが不要になる、genetic assimilationとは違う、と著者は強調している。概要を、図4に示した。上から、wild type, black mutant, black mutant由来のpolyphenc line, monophonic lineの結果である。2つのthresholds, T1, T2で、T1より下では常に黒色で、T2を超えると緑化する。T1とT2の間では、intermediate phenotypeを示す。図の山(個体の数)は、low temperature, high temperature, heat-shockによって変化する。

図4.文献18より引用

ブログの著者による意見:すでにこのブログで取り上げたが、epigeneticな変化は世代を超えて蓄積してゆくことが明瞭に示されているので、この論文が示したことは、新しくはない。選択によって、一方向への表現型の変化がadaptiveに蓄積した例として、発表当時は新規性が評価された。

  1. Suzuki, Y. & Nijhout, H. F., Science 311: 650 (2006)